« SOIのヒント | トップページ | トークショー 画像 »

2012年1月13日 (金)

全日本選手権 男子評論【コラム】

城田憲子の「フィギュアの世界」

 「男子の時代」という呼び名も、すっかり定着。4回転のあるなしが勝負を大きく左右し、1種類だけではなく2種類の4回転、さらにはルッツまでも試合に入れてくる選手のいる昨今である。世界を見据えれば、ジャンプだけではないといえども、「されどジャンプ」が男子の勝負。その方がスポーツとして純粋であるようにも感じるが、総合的に見れば、やはりフィギュアスケートは氷上のエンターテーメントであるとの考え方も、またある。

 

Untitled3_2

高橋大輔、小塚崇彦を猛スピードで追いかけている羽生結弦。黙々と努力しながらトップへと歩みつつある町田樹、無良崇人。そして2種類の4回転を持つ、村上大介。織田信成が怪我で欠場なのは残念ではあったが、見ている側にはそれぞれ迫力ある演技が楽しめた。

 まずはベテラン高橋。現役続行を決め、どんな試練があろうと自分の力を出しながら可能性に向かって頑張っていくと決心して迎えた全日本。半端でない覚悟が彼にはいつもあり、初心を忘れずリンクに立つその姿も立派といえる選手だ。

 デヴィット・ウィルソンの振り付けで始まったSP。ソウルミュージックに乗って難度の高いジャンプに挑み、4回転トーループ+3回転トーループを成功。曲にもリズムにもビートにもぴったりと合った、高橋ならではの気持ちの良いジャンプだった。4回転のコンビネーションジャンプは久しぶりで、2006年以来の会心の出来。当然技術点は良いだろう。ジャンプの後のスピードも模範的。続くトリプルアクセルも流れもタイミングも絶妙。

 観客もジャッジたちも、うなるほど素晴らしかった。3つのスピン要素それぞれの特徴を表しつつ、音の変化を体のしなやかさと余裕のある振りで氷上に舞いつつ、場内全体を興奮の渦の中に巻き込んでいく。観客、ジャッジも飲み込んでいくほどの演技は、いつもできるものではない。それを、選手たちが一番嫌うここでやってしまうのだから、本当にすごい選手だ。

 エッジの使い分けもしっかりモノにしきったストレートラインステップシークエンスは、スピードたっぷり。音楽の曲想やビートにぴったりと合っていて、曲の方が彼の滑りに合わせていくようにも感じるほどであった。締めのコンビネーションスピンも円熟さを増し、終わるころには観客は総立ち。会場中が感動に沸き返るほど素晴らしかった。高橋流の会場の力を自分のモノにした攻めの演技で、演技構成点は5項目中4項目が9点台という快挙。SPの得点は96・05点という自己ベスト。当然1位好発進。改めて高橋大輔のすごさに胸を打たれる思いだった。

 フリーは10点強の差で迎え、ブルースという難しいリズムをどうこなしながら進めていくのか興味深かった。序盤の4回転トーループの転倒。6分間のウォームアップ時に、4回転トーループと4回転フリップの両ジャンプを入念に練習していたため、余計な疲れがここで出てしまったのかもしれない。

 続くトリプルアクセルは素晴らしく、曲のタイミングとも合っていて、加点は当然。3回転サルコーは無難に、2回目のトリプルアクセルで転倒、シークエンス扱いになってしまった。3回転フリップ+2回転トーループ、3回転ループ、3回転ルッツ+3回転トーループは何とかこなしたが、パンチが効いていないようにも見えた。オリジナリティーあふれるスピンも、イキイキしたところが足りない。

 しかしサキュラーステップは、ブルースの曲想を反映させた演技の中、エッジワークの巧みさを随所に入れ、技術評価点ではもちろん加点を得る。もう一つのコリオステップは、今一つ本来の足さばきが足りないようにも思えた。スケーティングの流れはあるが、まだ、調整中のフリープログラムという気がしないでもない。ブルースという挑戦はなかなか難しいものだ。彼の中では消化しきれていない部分も多いと推察できるし、フリーは3位と本来の姿を見ることは出来なかった。しかし本人は「3位までに入り、世界選手権に行くのが目標」と弱気の発言をしていたとのこと…。世界選手権に焦点をあわせての今の出来、とも考えられないだろうか? 3月末には、SPとフリーの2本をそろえてくることを期待したい。

Untitled4

 小塚のSPは安全策の3回転フリップ+3回転トーループで挑んできた。これは彼の育ってきた「佐藤教室」ならば当然の策だろう。それでもウォーレンジャンプから入るあたりは、加点を貰えるような配慮も忘れてはいない。SPでミスは許されないことを、十分に熟知しているからだ。しかし4回転を入れない分、ジャンプには余裕があった。3つのジャンプ要素の技術評価点ではかなりの加点を得て、さらに3つのスピン要素のうち2つはレベル4の評価で加点。ストレートステップシークエンスには難しいステップが入り、曲に上手く合わせていて加点が貰えるステップワークだ。

 しかし前回王者、昨年の世界選手権銀メダリストという称号の中で、彼の緊張感はこちらにも伝わってくるようだった。要素のひとつひとつは確実だったが、上半身の動き、ムードがまだまだ曲想について行っていないような感じもした。演技力、表現力は今季、勉強と訓練を重ねていることは分かってはいるが…。まだまだ自分のものになった表現ではないように思えた。2位で発進。

 フリーは自分自身で選んだという「ファンタジー・フォー・ナウシカ」。思い入れも相当のものだろう。現王者のプライドが体の動きにも出ていたように思う。曲が鳴り始めると、伸びやかに柔らかくスタート。なるほど、シーズンオフのトレーニングがここで生きているのだと感じた。体の中から出てくる振りと曲との調和と使いは巧みで、特に足と腕、手の先とに神経が届いていた。

 前半は良い感じで柔らかさと強さとのバランスがうまく曲想に現れていて進歩が見られた。トリプルアクセルの転倒辺りからスピードが落ち始め、小塚の不得意とする所が表れ始めたかとも思ったが、それでも終盤のイーグルからの3回転ルッツ+2回転トーループ、コレオステップ、最後のフライングエントランスのコンビネーションスピンはさすが習得してきたスケートが生きていて、成長をうかがえた。フリーは2位。総合2位で世界へのキップを手にした。

Untitled5

 今季、一気に駆け上がってきた羽生は、昨季シニアデビューし、今季はGPファイナルにも進出し、4回転も一番成功率が高い選手だ。やはり若手は、技術点で稼いで勝っていくのが早道だろう。SPは早々に勝負をかけた難易度の高い構成だった。

 序盤、4回転トーループ+3回転トーループの予定が3回転トーループの形で体が開き、両足着地気味で大きいミスを引き起こした。当日の公式練習も4回転のタイミングが急に合わなくなってきていた。緊張のせいか? 曲が鳴り始めても曲の真ん中には立ってないよう、気持ちだけが前に力で進んでいる感じがした。トリプルアクセルはカウンター・ターンからの入り、技術評価点で加点が付く確実なジャンプ前のターンだ。3つ目のジャンプの3回転フリップに2回転トーループを付け、何とかコンビネーションジャンプもリカバーした。もちろん4回転を入れた場合とは得点が大きく違うが、3回転トーループをダブらせてしまわず、冷静に2回転トーループを付けるところは、きちっと計算されている。

 3つのスピン要素では一つしかレベル4が取れなかったが、彼の体の柔らかさを使ったポジショニングはオリジナリティーがあり、彼のスピンの良さを引き出すのに効果的に働き、加点対象になった。ストレートステップシークエンスのレベル4もなかなか見ごたえがあった。フリーレッグの処理、表現力のタイミングなど、もう少しの調整と間のとり方を工夫する必要はあると思うが、何とか踏ん張って小差の4位で終えた。

 頑張り屋さんの羽生が迎えたフリーは、4回転に勝負をかけた。はじめの4回転トーループの成功は安定感のあるリズムの良いジャンプ。ここで気持ちが楽になったのか、本来の良さが出てきた。イーグルからトリプルアクセル、そしてまたイーグルと心憎い演出。技術評価点でプラス3の加点が出たほど、流れの中でのジャンプは一つのパッケージとしても素晴らしいものだった。

 3回転フリップは間違ったエッジの踏切の「e」マークで減点はあったが、3回転ルッツ+2回転トーループは第2ジャンプで手を上にあげる高い技術を見せた。トリプルアクセル+3回転トーループ+2回転トーループのリズム感のある3連続のジャンプも素晴らしい。3回転ループも落ち着いて軸があり、流れもあった。8つのジャンプのうち、最後のジャンプがシングルサルコーになってしまい、パーフェクトとはいかなかったが、世界選手権の派遣がかかっているプレッシャーも大きな全日本で、ここまで成功するのはたいしたものだ。3つのスピン要素のうち2つはレベル4で、すべてに加点が付いていた。サーキュラーステッップのレベル4も曲想と難しさがかみ合っていてとてもよい。終盤のコリオステップは、いつもより気持ちが引いている感じもしたが、疲れが出てきたのだろう。

 最後のフライングエントランスのコンビネーションスピンはビールマンスピンも見せ、羽生の持てる力を出し切った。スピンでの腕の使い方などに工夫が見られ、「ロミオとジュリェット」の曲想を反映した動きが氷上で見せられたのは、ロシアのナタリア・ベステミアノワ&イゴール・ボブリン夫妻の振り付けの手直しが功をなしたのかもしれない。フリー1位で総合3位。世界選手権が確定した。体全体の動きやフリーレッグの神経の行き届かない様子は、まだまだ訓練が必要かとも思うが、これだけの才能と精神力の強さを持ち合わせている選手は、世界でも数少ないといってよいだろう。世界選手権に期待したい。

(気が向いたらクリックお願い)

にほんブログ村 その他スポーツブログ スケートへ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ

« SOIのヒント | トップページ | トークショー 画像 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/541748/53728974

この記事へのトラックバック一覧です: 全日本選手権 男子評論【コラム】:

« SOIのヒント | トップページ | トークショー 画像 »

投票2

  • 音楽
  • 理由も教えてくださると嬉しい。

投票

  • 投票
2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ